【レポート】育種家 川越ROKAさんを訪ねて[後編]
先週に続き、宮崎県の育種家 川越ROKAさんの訪問レポートをお届けします。
いったいどんなお話が聞けるでしょうか♪
*[前編]をまだお読みでない方はこちらよりどうぞ。
見立ての妙
“ジャム&クリーム” “バードフェイス” “丸弁レモンカラー” などなど… ROKAさんが交配した品種のネーミングにはセンスがキラリと光ります。
「ネーミングにも特徴があって、ひとつのイメージがあるじゃないですか。例えば “クロスズメ” っていう名前ができたら、結局以降は名前に合う品種、個体を選ぶんです。だからイメージにピッタリっていうのは当たり前なんです。花に名前をつけるんじゃなくて、最初の時点から次の段階はその名前に合った花を選ぶっていうことをしているので。
今はネットに “ピンク” とか “桜のよう” と打ち込めば、大体キーワードが出てくるじゃないですか。昔はそれがなかったからイメージがあるとずっと辞書とかを引いて、その中でイメージに合うものを選ぶということをしていたんです。」
ーー (秋田氏)ROKAさんは脚本家をされていたんですよね?
「シナリオライターとか劇作家になりたいなと思って。文章とか勉強を独学ですけどやっていたんですけど、まぁモノにならなかったんです。今となればね、文章を書くのは役立っていますよね。」
ーー (秋田氏)綺麗っていうだけだと流れちゃうんですけど、そこに名前をつけると残る。相手がちゃんと認識できないとそれが次いかないですよね。
「だからネーミングにもちょっとこだわりがあって。日本人が日本で作るものなので、できるだけ綺麗な日本語を使いたい。あとは “見立て” ですね。見立てっていうのをすごく重視しています。」
「例えば興梠信子(コウロギノブコ)さん育種の “モンロースカート” なんていう花があるんですけど、反転咲き(※花弁をひるがえして咲くこと)でモンロースカートって名前があると別のシーンが思い浮かぶでしょ。そのイメージで時空を離れても共有できる、同じ場所にいられるってことが見立ての妙なんです。」
ーー (秋田氏)そもそも見立てというのはどのような意味合いですか?
「見立てっていうのは、結局ひとつのある事柄を別のモノを使って表現するっていうやり方なんです。これ日本文化なんですよ。植物で言えば枯山水とか盆栽が見立てですね。あとは落語で言ったら扇子を箸にしたり、手ぬぐいを財布にしたりっていうのが見立てですね。そういう日常文化に溶け込んでいるものでその技法を使うと伝わりやすいというのがあるんですね。」
ーー (秋田氏)モノだけじゃなくてそれ以外のイメージを見ている人に持たせる。花だけじゃなくていろんな物語性をイメージさせるっていうことですね。
「その花を通して同じイメージを共有できるっていうのが、ピタッ!てハマるとすごく深い感動が生まれるんですね。外国だとどちらかというとメモリアル的なネーミングなんですよね。だからバラなんかだと人の名前が付いていたり。でも日本には見立ての文化があって。見立ては使うようにしていますよね。秋田さんの “多摩の星空” なんかすごく見立てですよね。」
ーー (秋田氏)育種はそもそも幅があるものだから、それをちゃんと伝えるためにもイメージの名前っていうのは大事ですよね。
まだ見ぬ世界を
ここ3〜4年はパンジー&ビオラのほか、バラの育種にも励んでいるROKAさん。まさに実験中の苗たちを見せてくださいました。
「今のところちょっとトゲがあるので、四季咲きでトゲをなくすことを目指している。だって嫌でしょ?バラの隣を歩いていていきなり呼び止められるのも。“引き止めないバラ” ってのを目指しています。」
ここでもユーモアと言葉のセンスが光ります。
人と同じものには価値がない世界。
近年交配人口が増えてちょっとやそこらじゃ新品種を出せない状況で、交配という答えのない作業を繰り返すことは果てしないことにも思えるが、一体どんなところにおもしろみを感じているかと尋ねてみたところ、こんな言葉が返ってきました。
「やっぱり世界で初めて自分がその花を見るっていうところでしょうね。まだないものを。」
まだ見ぬ新しい世界を見てみたいという好奇心が、ROKAさんを突き動かすのだと感じました。
私が華もみじでお花に関わる仕事をはじめておよそ2年半。毎週新しくやって来る花苗と顔を合わせ、それなりにお花のことをわかってきたつもりでいましたが、まだまだ知らない世界があるものだと、わずかな反省と新たな好奇心の入り混じる時間となりました。
ハウス向かいの神社の参道につつましやかに咲くビオラ。
「交配は自分探しみたいなもの。」
その言葉がじんわりと胸に広がりました。
(編集部 よっしー)
川越ROKAさん Information
instagram @crinumjaponicum
ROKA BLOG https://ameblo.jp/pansy-tane/