【翁明窯元 × 華もみじ】オリジナル鉢 誕生ストーリー vol.2
翁明窯元さんとアトリエ華もみじによるオリジナル鉢づくり。
今回は、器と植物それぞれの分野のプロフェッショナルがアイデアを出し合い新たなものを生み出していく様子をお届けしていきます。
さて、どんな鉢が生まれるでしょうか。
はじめての鉢づくり
翁明窯元とのコラボレーションが決まって初の打ち合わせ。
この日に合わせ、尚幸さんがいくつかバリエーションのある試作品を用意してくださっていた。
小森先生は残念ながらスケジュールが合わずリモートでの参加に。
「台形型は一般的なので、そこから脱却した方が特別感が出るかなと思って敢えてまっすぐ。その考えで今回作らせていただきました。」と尚幸さん。
とても魅力的な試作品を前に「もうこれで…✨」と言ってしまいそうになる気持ちを抑えつつ、使い勝手のよいサイズ感や模様を探っていく。
「あんまりうちが色を使わないからですね、ほぼ素材の色なので。今は北欧ブームとかもあってカラフルなものが多いですけど、あんまりそういうのはやっていなくて。色が植物の方にあるから。料理とかも同じなんですけど料理に鮮やかな色があるから、器はそんなに派手じゃなくて地味なほうがいい。」
鉢を手づくりするのは今回がはじめてという尚幸さんの眼差しも真剣だ。
翁明窯元で展開する器の模様は
『とびかんな』『刷毛目』『四方がけ』『水玉』『ドット』『せんだん巻き』『黒マット』とさまざま。
一見モダンな模様もどこか懐かしくあたたかみのある雰囲気。
これらの中からオリジナル鉢に合う模様をいくつかセレクトし、次回の試作品をお願いをさせていただいた。
嬉しい誤算
数週間後、その後の状況を伺いに工房を訪ねた。
するとそこには、ぽってりとした焼き入れ前の試作品が!
「かわいい〜〜〜〜〜!」
あまりのかわいらしさにこの日訪れた小森先生、秋田さん、スタッフ皆がオリジナル鉢の成功を確信した。
「慌てて乾かしたので歪みが出てて…」
ーー (小森)この歪みがかわいいですね!
「いいですか?手作り感は逆に出るので。だいたいそのまま焼き上がると思うんです。」
ーー (小森)いいですね、これ。お花は結構丸型というよりちょっと横長の方が植えやすくて。
「ろくろ品って取り上げるときに必ず歪むんです。それから時間をかけて丸に戻していくんです。」
ーー (小森)え、じゃあこのままがいい。
「あ、それならできますよ。これはですね、押し戻したんです。乾いてきて無理やり戻すとヒビが入るんです。」
▲戻しきれずにバリっと割れてしまった鉢
ーー (小森)たぶん丸い鉢って普通にあるので、だったら最初からその形をそのまま活かすのはいいと思う。植え方がユニットと言って、パーツで花束を作って何ユニットって植える形なので、表面にユニットをふたつ置けるほうがたぶんいい。
「かえってそれ失敗したなと思ったんですけど、かえってよかったですね。取り上げるときに必ず歪んでしまうので。」
ーー (小森)絶対楕円がかわいい。
「それはなります、戻さなければ。そちらの方が安心してできますし。無理やり口を戻さなくていいから。」
偶然の産物とはまさにこういうこと。
予期せず嬉しい出来事が起きた。
▲隣で大人たちの歓喜した様子を伺っていた愛犬ユキちゃんもこの表情。
植物が育つ鉢を求めて
デザインの方向性が決まったところで、制作工程についてわかりやすく教えていただいた。
今回のオリジナル鉢の制作にはろくろが使われる。
基本となるのはまず土づくり。
翁明窯元で使用する土は小石原地区の山から採れる赤土(あかつち)が原料となり、小石原焼特有の素朴であたたかみのある風合いが生み出される。
まずは体重をかけながら土を練り、作りたい器の大きさに合わせて押し広げる。なかなか力の要る作業だ。
練った土を回転台に乗せ、台を回しながら形を作っていく。
ある程度の大きさになったところで、大きな木のヘラが登場。
「これで形を決めていくんです。」
ーー (秋田)それは手だと難しいですか?
「そうですね。手よりもフラットになるし、これで粘土を押し込むことで底割れしなくなる。土の密度がギュッと締まるので。例えばこの状態で乾かすと割れる確率がすごく上がるんですけど、ギュッと締め込んだら割れなくなる。かなり力を入れてヘラでギュッと。特に広い底はよく締めておかないと。」
聞くとこのヘラも尚幸さんの手づくり。ヘラを作る職人さんが減ってきているらしく、探しても求めるものが売っていないのだとか。
なければ作る!そんなところにも職人魂が垣間見えた。
さらに手で形を整えていく。
ーー (秋田)植物の根っこって重力でみんな下にいっちゃうんですけど、こういう指の跡の線があると当たって横にいくの。だからすごくいい。
「ヘラで消してたんですよ。」
ーー (秋田)消さない方が植物にはいいと思います。外国の苗ポットだと見えないように線が入っているんですよ。日本のはあんまり入れてないんだけど。指の線の方が自然でいいですね。
へ〜!思わぬところで植物の豆知識を得た。自然にできていたものが植物にとっていい効果だなんて、これまた嬉しい誤算だった。
そして普段器を作る際にはカビや給水をなるべく抑えるために内側にも釉薬をかけるが、植物にとってはかけない方がある程度水分が行き来でき好ましいとのことで、オリジナル鉢の内側は無釉で焼き上げていただくことになった。
てん・てん・てん
小石原焼を象徴する大事な要素といえばこれ。
『とびかんな』や『刷毛目(はけめ)』と呼ばれる伝統技法により生まれる独特の模様だ。
中でもとびかんなは特徴的で、放射状にてん・てん・てんと刻み込まれた模様が実に美しい。
かんなと呼ばれる工具の刃先を使って、ろくろの上で回る器の表面に上写真のような模様を刻んでいく技法で、とびかんなだけをやっている地区は全国でも珍しいのだとか。
これらのかんなも尚幸さんの手づくり。
▲オークションで買い漁ったという時計のゼンマイ
時計のゼンマイを切り取ったバネをストーブで焼いたりなどして好みの硬さに加工していくという。
これぞ職人技。
かんなが跳ねる独特の音もぜひ聞いていただきたい。
中心に向かって真っ直ぐ90度に立つかんなが一番きれいなのだとか。いゃ〜お見事!
とても貴重なものを見せていただいた。
今回はより一歩完成に近づいたオリジナル鉢の軌跡をご覧いただきましたが、いかがでしたか?ワクワクしてきますよね♪
おまけに。
尚幸さんが「自分で体験した後ってものの見方が変わるから。」と、今回特別にとびかんなの体験をさせてくださいました。
恐る恐るかんなを当てる小森先生。と、その様子を収める秋田さん。
ひかるくんもはじめてのとびかんなに興奮気味。
教え方上手なお二人のおかげで、はじめてにしてはなかなかのものができました!
実際に体験してみると、思っていた以上に力加減や持ち手の角度など絶妙なバランスが難しいことがわかりました。
そして尚幸さんが話していたように、器に対する印象がガラッと変わり、体験後には凄まじいほどの愛着も湧いていました(笑)
次回はいよいよ完成した鉢をご紹介できるかと思います。ぜひ楽しみにしていてくださいね♪
翁明窯元さんの店舗一角にあるギャラリースペースでは磁器の作品も展示されています。陶器とはまたひと味違った魅力を発見できるかも!
〒838-1601 福岡県朝倉郡東峰村小石原1126-1
営業時間 : 10:00〜17:00
定休日:火曜日(お正月・お盆休み有り)
TEL&FAX:0946-74-2186
http://www.020oumei.info/
※陶芸体験は行っておりません。今回特別に体験をさせていただきました。